PPM分析とは
PPM分析とは、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(Product Portfolio Management)」の略称で、経営戦略や事業戦略を策定するためのフレームワークの一つです。ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が開発したもので、自社が持つ複数の事業や製品(プロダクト)を、「市場成長率」と「相対的市場シェア」の2軸で分類し、どの事業に資源(ヒト・モノ・カネ)を配分すべきかを決定するために用いられます。事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つのカテゴリーに位置づけることで、経営資源を最も効率的かつ戦略的に配分する指針が得られます。
4つのセグメントが示す戦略的なポジション
PPM分析では、すべての事業を以下の4つの象限に分類し、それぞれに応じた戦略的なポジションとキャッシュフローの状況を把握します。
花形(Star)
市場成長率が高く、相対的市場シェアも高い事業です。将来の成長が期待されますが、競合との競争も激しいため、市場シェア維持・拡大のために多額の投資が必要とされます。将来の「金のなる木」候補と言えるでしょう。
金のなる木(Cash Cow)
市場成長率は低いものの、相対的市場シェアが高い事業です。すでに市場での地位が確立されているため、大きな追加投資を必要とせず、安定して多くのキャッシュ(利益)を生み出します。このキャッシュを他の事業に投資するのが基本的な戦略となります。
問題児(Question Mark)
市場成長率は高いものの、相対的市場シェアは低い事業です。将来成長する可能性がありますが、シェア獲得のために多額の投資が必要となり、このまま放置すると「負け犬」になるリスクもあります。投資を継続するか撤退するかの判断が求められます。
負け犬(Dog)
市場成長率、相対的市場シェアともに低い事業です。キャッシュの創出も少なく、将来的な成長も見込めないため、原則として事業の撤退や縮小を検討する対象となります。
この分類を通じて、事業ポートフォリオ全体のバランスと資金の流れを視覚的に把握できるのがPPM分析の大きな利点です。
大企業・ベンチャー企業における資源配分の指針
PPM分析は、特に複数の事業を抱える大企業や、限られた資金の中で事業の優先順位を決めたいベンチャー企業にとって、極めて重要な資源配分の指針を提供します。
大企業の場合、安定した収益源である「金のなる木」のキャッシュを、将来の成長を担う「花形」や「問題児」へと戦略的に投資する判断を下す際にこの分析を活用します。例えば、成熟したメイン事業(金のなる木)の利益を、新規参入したSaaS事業(問題児)のマーケティングや開発費に回すといった具体的な意思決定が可能になるわけです。
一方、ベンチャー企業や中小企業の場合、全事業が「問題児」や「花形」に偏りがちです。この時、最も重要となるのは、「問題児」の中から将来的に「花形」になれる可能性の高い事業を見極め、集中投資することです。全ての事業に資金を分散させるのではなく、PPM分析の結果に基づいて、リソースの「選択と集中」を行うための客観的な判断基準が得られます。
デジタルマーケティングの領域におけるPPMの応用
PPM分析の考え方は、事業ポートフォリオだけでなく、デジタルマーケティングの領域にも応用して活用できます。この場合、分析対象を「Webサイト内の主要コンテンツ」や「広告キャンペーン」に置き換えて考えることが可能です。
例えば、Webサイト内のコンテンツを「市場成長率=そのキーワードの検索ボリュームの伸び」「相対的市場シェア=そのコンテンツの検索順位」として捉え直すことができます。SEOにおいて、検索順位が高い安定したコンテンツ(金のなる木)の予算やリソースを、検索ボリュームが伸びているが順位はまだ低いコンテンツ(問題児)のコンテンツ強化やプロモーションに振り分けるといった判断ができます。これにより、デジタルマーケティングにおいても、どの施策にリソースを集中すれば費用対効果が高いかを、論理的に判断できるようになるのです。
Q&A
Q1. PPM分析とSWOT分析は、どのように使い分けるべきですか?
PPM分析は、主に複数の事業や製品間の「資源配分」や「事業の存続可否」を判断するトップダウンの視点で使われます。一方、SWOT分析は、一つの事業や製品の「戦略の方向性」を決めるための詳細な環境分析(強み・弱み・機会・脅威)に使われます。
Q2. 「相対的市場シェア」とは具体的に何を指しますか?
相対的市場シェアとは、自社の市場シェアを、業界内の一番大きな競合企業の市場シェアで割った値のことです。つまり、「トップ競合に対して自社がどれくらいのシェアを持っているか」を示す指標であり、市場における自社の優位性を測るために使われます。
Q3. 「問題児」の事業は、すべて「花形」を目指して投資すべきですか?
必ずしもそうではありません。市場成長率が高くても、自社の強みと合致しない場合や、先行投資が膨大になりすぎる場合は、撤退や縮小も視野に入れる必要があります。投資の継続判断には、3C分析なども組み合わせて慎重に行うべきです。
Q4. PPM分析の欠点はありますか?
あります。市場成長率と市場シェアという2つの指標だけで事業の将来性を判断するため、シナジー効果(事業間の相乗効果)や、社会的な影響といった定性的な要素が考慮されにくいという点が欠点として挙げられます。
Q5. 負け犬の事業はすぐに撤退すべきですか?
原則として撤退・縮小の検討対象ですが、すぐに撤退すべきとは限りません。他の事業の販売チャネルとして機能していたり、顧客基盤の維持に役立っていたりするなど、目に見えない貢献(シナジー)がある場合は、維持するという戦略を取ることも考えられます。