MRR

    MRRとは

    MRRとは「Monthly Recurring Revenue」の略称で、日本語では「月間経常収益」または「月次定期収益」と訳されます。これは、SaaS(Software as a Service)やサブスクリプション型ビジネスなど、月額または年額の継続的な収益モデルを採用している企業にとって、毎月安定して得られることが見込まれる収益の合計額を示す重要な経営指標です。MRRは、単発の売上ではなく、将来にわたって継続する収益の規模を測るものであり、企業の成長率や財務の健全性を判断するための最も重要なバロメーターの一つです。

    MRRがサブスクリプションビジネスの生命線である理由

    MRRが特にサブスクリプションビジネスの生命線と言われるのは、この指標が事業の「予測可能性」と「成長速度」を明確に示してくれるからです。従来のビジネスモデルでは、売上が月によって大きく変動することが一般的でしたが、月額課金モデルではMRRを見ることで、来月以降にどの程度の収益が見込めるかを高い精度で予測できます。

    新規顧客獲得数、解約率(チャーンレート)、既存顧客からの単価アップ(アップセルクロスセル)といった複数の要素がMRRの変動に影響を与えます。そのため、MRRを構成要素ごとに分解して分析することで、企業のマーケティングや営業、製品開発のどこに課題があるかを具体的に把握することが可能になります。ベンチャー企業が資金調達を行う際にも、このMRRの成長率と安定性が、投資家からの評価を決定づける最重要ポイントとなるでしょう。

    MRRを構成する5つの主要な要素

    MRRは一つの数字ですが、その増減の裏には、事業の健全性を分析するために欠かせない5つの要素が隠れています。これらの要素を理解することが、マーケターにとって次の具体的なアクションを決定づけるヒントになります。

    新規MRR(New MRR)

    その月に新しく獲得した顧客から得られた月間収益のことです。新規マーケティング活動の成果を測る指標になります。

    アップグレードMRR(Upgrade MRR/Expansion MRR)

    既存顧客が上位プランへの切り替えや追加オプションの購入など、顧客単価が上がったことによって増加した収益です。顧客維持と単価向上施策の成功を示します。

    ダウングレードMRR(Downgrade MRR/Contraction MRR)

    既存顧客が下位プランへ変更したことなど、顧客単価が下がったことによる減少収益です。顧客満足度や製品の課題を示す場合があります。

    解約MRR(Churn MRR)

    顧客がサービスを解約したことによって失われた収益です。リテンション施策の課題を如実に示します。

    リバイバルMRR(Reactivation MRR)

    一度解約した顧客が、サービスを再開したことによって戻ってきた収益です。休眠顧客への再アプローチ施策の成果を表します。

    真の成長を示すのは、これらの増減を全て考慮に入れた「ネットMRR成長率」であり、特に「アップグレードMRR」が「ダウングレードMRRと解約MRR」の合計を上回っている状態(ネガティブチャーン)を目指すことが理想です。

    MRRを最大化するためのマーケティング戦略

    MRRを最大化するためには、新規獲得だけでなく、アップセル・クロスセルによる既存顧客からの収益増加を狙う戦略が非常に重要です。特に、新規獲得コスト(CPA)が高止まりしている現代では、既存顧客からの収益をいかに増やすかが、利益率を改善する鍵となります。

    マーケターは、アクセス解析やCRMデータを用いて、サービスを使いこなせていない顧客や、上位プランの利用によってさらに大きなメリットを得られる顧客を特定します。そして、Webサイトの会員向けページで、上位プラン限定の成功事例を紹介したり、利用状況に応じた個別のおすすめ情報を表示したりするなど、パーソナライズされたアプローチを行います。顧客が自然な流れで、より高い価値を提供するサービスを選んでくれるような導線設計とコミュニケーション設計こそが、持続的なMRR成長を支える柱となります。

    Q&A

    Q1. MRRの計算式はどのように使われますか?

    基本的なMRRは、「現在の全顧客の月額利用料の合計」で算出できますが、事業の成長を測る際は、その月の変動を全て加味した「期末MRR = 期首MRR + 新規MRR + アップグレードMRR – ダウングレードMRR – 解約MRR」という計算式で成長性を分析できます。

    Q2. MRRを構成する中で、マーケターが最も注力すべき指標は何ですか?

    新規顧客獲得による「新規MRR」はもちろん重要ですが、より安定した成長のために「アップグレードMRR」と「解約MRR(チャーンMRR)」に注力すべきです。アップセル・クロスセルで単価を上げ、リテンション施策で解約を防ぐことが、LTV向上に直結します。

    Q3. MRRとARRの違いは何ですか?

    MRRが月間収益を表すのに対し、ARRは「Annual Recurring Revenue(年間経常収益)」の略で、MRRを12倍にして年間の収益規模を予測する指標です。ARRは、特にエンタープライズ向けの大型契約が多いBtoBビジネスで、事業の長期的な規模を評価する際によく利用されます。

    Q4. 解約率(チャーンレート)が高いとMRRにどのような影響がありますか?

    解約率が高いと、その分「解約MRR(チャーンMRR)」が大きくなります。新規顧客を獲得しても、それを上回る解約があると、結果としてMRRが減少し、事業が縮小していることになります。この状態を「死の谷」と呼び、早急なリテンション施策が求められます。

    Q5. 一括払いで年間契約をしている顧客がいる場合、MRRにどう反映させるのですか?

    年額一括払いの場合は、支払総額を12で割って月額換算し、それをMRRに計上します。例えば、年間12万円の契約であれば、毎月1万円をMRRとして計上することで、月々の収益を正しく把握し、分析の精度を保ちます。

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    サブスクリプション

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